わさびの休み

海だったり山だったり、その他色々書こう!と思っています

敦賀への旅③

怪しげなお店に入ると、カウンター席が10席ほどと、テーブル席が5席ほど並んでいた。


先客のおじさんが一人、お店の女将さんと一緒にカウンターの上に設置されたテレビを見ていた。


女将さんが僕の対応をしてくれた。その間に先客のおじさんが出て行った。


なんだか、おばあちゃんの家に遊びに来たような錯覚を覚えた。メニューを開くと、色んなメニューが並ぶ。これが大衆食堂というやつか?


ソースカツ丼を注文しよう! そう決意したときだった。


お店の奥の方にあるであろう、プライベート用の玄関の開く音が聞こえ、女将さんの孫と孫を抱くお母さん(女将さんの娘さんか、息子の奥さん)の姿が見えた。


女将さんは孫に対し、「楽しかったでちゅか」みたいなノリで話しかける。どこからか大将も現れ、孫と触れ合っていた。


孫との楽しみを奪い、「ソースカツ丼下さい!」と注文できるほどの勇気は持ち合わせていない。僕は、ただただその光景を眺めていた。


孫との触れ合いを終えた女将さんに僕は意を決して言った。


ソースカツ丼下さい!」


次回、ソースカツ丼を食する。

敦賀への旅②

敦賀で腹が減った僕は昼食を求め、駅前の商店街まで戻った。

 

駅前の商店街は人の気配がほとんどなく、少し怖くなった。もしかしたら、僕が見落としただけで今日は平日なのでは? そんな不安がよぎり、スマホでカレンダーを確認したほどだ。

 

色々なお店が軒を連ねる。駅前だから居酒屋もある。しかし、昼だからやっていない。

 

いかにも観光客らしい雰囲気を醸し出す学生三人組が、キョロキョロしながら僕の前を歩いている。どうやら、彼らも僕と同じくお昼をどこで食べるか検討しているようだ。

 

三人はとある寿司屋に入って行った。見ると「一見さん歓迎!」と書かれた紙が貼られている。僕は「やられた!」と思った。前の学生と連チャンで入るのは気が引けた。

 

仕方なく、僕は駅前にあるお店に入った。

 

外観の第一印象は「高野豆腐とかメニューにないモノを注文すると、厨房の奥にある真っ暗なトンネルの前に案内されて、このトンネルから行けますよ。なんて言われてさぁ、どこか異世界に連れて行かれちゃいそうだな」だ。

 

つづく

敦賀への旅①

「そうだ! 日本海へ行こう!」


そう思い立ったのは、秋の日曜日の午前のことだった。何もせずに休みが終わってしまうことを恐れたのだと思う。


どこに行こうかとグーグルマップを見ていると、滋賀県敦賀という街を見つけた。


僕は学生時代に野球をやっていた。高校野球の名門、敦賀気比高校で敦賀の街に勝手に親しみを持っていたのだ。


敦賀には日本海もある。


カバンに財布と本を入れて家を出た。名古屋駅まで行き、そこから特急『しらさぎ』に乗り込む。


電車に揺られながら宮部みゆきさんの『火車』を開いた。こんなに面白い小説は久々に読んだ気がする。クレジットカードには気を付けようと思った。


米原駅に着くと、「近くの方と協力して座席を回転させてください」という謎の放送が流れた。なんでも、米原駅から電車の進行方向が変わるらしい。まさか電車の中で協力プレイが発生するとは思ってもみなかった。


敦賀に着いたのはお昼ごろだった。


とりあえず日本海を見なければ! と思い歩いた。駅から海までは意外と遠くて大変だ。疲れたが、なんとか日本海を拝むことができた。


目標を達成すると、急に腹が減った。これだけ歩けば腹も減る。


つづく。

能登半島の日本海

僕が初めて日本海を見たのは、22歳の初夏だった。

 

仕事が幾分ヒマだったのでまとめて有休を取り、石川県の能登に出かけた。能登の理由は森見登美彦さんの『恋文の技術』の聖地巡礼だ。

 

『恋文の技術』には、のと鉄道の駅名がよく出てきた。その中でも僕が一番行ってみたいのは能登鹿島駅だ。

 

能登鹿島駅は桜が有名らしく、テレビでもたびたび紹介されている。しかし、僕が行ったときにはすでに葉桜だった。

 

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能登鹿島

能登鹿島駅を出ると、日本海が広がっていた。

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能登鹿島駅の日本海

僕は衝撃を受けた。僕の住む愛知県の海ではありえない青さが、どこまでも広がっている。

 

電車まで時間があった。「何か食べたい!」と思ったが、駅前には日本海しかないので、そのままボケーと海を眺めていた。

 

兼六園金沢21世紀美術館にも行ったが、一番の思い出は『能登鹿島駅から見た日本海』だ。

 

石川県行ったことある? と聞かれたときは、「うん、海がめっちゃキレイだよね!」と答える所存だ。

 

能登はアニメ『花咲くいろは』のぼんぼり祭りをやっているので、そちらにも行ってみたい!

 

駐車場のクワガタ

会社の駐車場でクワガタと出会った。

 

仕事を終え駐車場をとぼとぼ歩いていると、僕の車の右側白線上にクワガタはいた。


 

僕の会社は山に囲まれたところにある。以前、パトカーが会社のそばの道に停まっていた。「何だろう」と覗くと、車に轢かれた大きなシカが横たわっていた。そのくらい山が近くにある。

 

だから、クワガタがいてもそこまで不思議ではない。

 

しかし、この子をどうしようか。さすがに駐車場に置き去りはどうかと思った。会社の前の山に返してもいいが、再び常夜灯の光に誘われて駐車場にやってくるかもしれない。

 

昔カブトムシを取りに行っていた森に返そうと考えた。あそこなら帰り道に寄れるし都合がいい。

 

クワガタを適当な袋に入れた。もちろん息のできる穴があることを確認して。

 

助手席にクワガタを乗せることになるとは思ってもいなかった。僕の愛車のスイフトも「おいおい、クワガタかよ!」と驚いているだろう。

 

森のそばに車を停め、クワガタを放った。ドラマみたいにバサッと飛んだりはしなかった。

 

はたして僕の思い出の森に放すことが正解かどうか分からないが、やれることはやったと思う。

小説との出会い

小説との出会い

僕は立派な大人に憧れていた。

 

何をもって立派なのか、ちゃんとした定義は無かった。だけど「立派な大人は本を読むモノだ!」という漠然とした考えがあった。

 

社会人一年生の僕は社会人にふさわしい本を求め、近所の本屋へ向かった。スーパーに併設された「こんなところに!」感の漂う小さな本屋だった。

 

帯に『映画化!』と書かれた北村薫さんの小説『八月の六日間』を手に取ってレジに向かった。

 

表紙がキレイ。決め手はこれしかなかった。本当にこの本でいいのだろうか? レジで会計をしてもらっているなか、僕は不安を抱いていた。

 

読み切るのに半年かかった。だけど面白かった。出版社で働くキャリアウーマンが趣味の登山を楽しんでいる情景を描いた小説だ。

 

僕が山に登るキッカケは間違いなくこの本だ。

 

のちに読む『空飛ぶ馬』で落語を聞くようにもなったし、北村薫さんにずいぶん影響を受けているな、と思う。

 

あれから6年たったが、立派な大人には程遠い。『八月の六日間』の映画化の情報も聞かない。

 

でも、『八月の六日間』と出会えてよかったなぁ、と思う。