小説との出会い
小説との出会い
僕は立派な大人に憧れていた。
何をもって立派なのか、ちゃんとした定義は無かった。だけど「立派な大人は本を読むモノだ!」という漠然とした考えがあった。
社会人一年生の僕は社会人にふさわしい本を求め、近所の本屋へ向かった。スーパーに併設された「こんなところに!」感の漂う小さな本屋だった。
帯に『映画化!』と書かれた北村薫さんの小説『八月の六日間』を手に取ってレジに向かった。
表紙がキレイ。決め手はこれしかなかった。本当にこの本でいいのだろうか? レジで会計をしてもらっているなか、僕は不安を抱いていた。
読み切るのに半年かかった。だけど面白かった。出版社で働くキャリアウーマンが趣味の登山を楽しんでいる情景を描いた小説だ。
僕が山に登るキッカケは間違いなくこの本だ。
のちに読む『空飛ぶ馬』で落語を聞くようにもなったし、北村薫さんにずいぶん影響を受けているな、と思う。
あれから6年たったが、立派な大人には程遠い。『八月の六日間』の映画化の情報も聞かない。
でも、『八月の六日間』と出会えてよかったなぁ、と思う。